僕が大学生だった頃、アンセルメとスイスロマンド管弦楽団が、名古屋へ来て鶴舞公園の名古屋市公会堂で演奏会を行ったことがあった。
その時の演奏項目は、明確に覚えているのは、ベルリオーズの「幻想交響曲」である。もう一つは記憶が確かでないが、確か、ムソルグスキーの「展覧会の絵」であったと思う。 そして、アンコールは、ラベルの「なき王女のためのパバーヌ」であった。
その時既にアンセルメは白髪の老人であった。白髪の目立つ指揮者であった。彼は数学者でローザンヌの大学の教授を辞めてスイスロマンド管弦楽団を創設したことは知っていた。後から聞いた話では、このときの演奏会の批評家の評価はそれほどいいものではなかったそうだが、僕は「幻想」と「なき王女のためのパバーヌ」に強烈な印象を受けた。
全ての音の一つ一つが、いわばぴかぴか光っている感じがした。大学生でありながら奮発して、前から数列目のS席であったこともあるかも知れない。今としてはずいぶん古い歴史的な話になってしまったが、音の一つ一つがぴかぴかであるという印象は、僕の耳に何年経っても消えないでずっと残っている。
それから30年以上経ってから、「幻想」を基に、日本舞踊の踊りにできないかチャレンジしたことがあったが僕の能力を超えていると思い断念した。僕の場合、断念したことの方が達成できたことよりずっと多い。情けないことが多すぎる。ベートーベンのピアノソナタ23番「アパッショナータ」を弾くのだ、弾けるようになったら聞かしてやると、僕は大学生の頃周りの友人に、はばかりもなく言っていた。恥ずかしい限りだ。