小論文の指導で、ぼくが一番困るのは「生物の多様性がなぜ重要か」というテーマについて小論文を書く場合である。具体的でかつ簡単に生物の多様性が重要であることを説明することがむずかしいのだ。確かに因果関係がはっきりしているものは分かりやすい。いま、メダカが急激に数を減らしているそうだ。小川の護岸工事のためであろう。しかし、そのメダカでさえその数が減ってたいへん困ると感じる人は、どれくらいいるだろうか。また、いなくなっても誰も気づかないような、小さな虫など、重要だとは思わないでも仕方ないと思われる。説得力があるとおもわれる場合の一つは、新薬の開発に種々の菌類や植物などが役立つ場合である。この場合は、たしかに、生物の多様性がキーワードになるだろう。その中から、難病に効果がある新薬を見つけることができるかも知れないからである。
では、生物の多様性が重要である理由をどのように考えたらよいだろうか。わたしは、「一寸の虫にも五分の魂」というような、生物自体に対する畏敬の念であろうかと思っている。どんな生物でも、死に絶えれば復活することはない。どんな簡単そうな生物であっても人間が作ることは不可能である。そう考えると、生物に対しては最大限の畏敬の念が沸くだろう。殺すのは簡単である。しかし、作れない。この恐れに似た畏敬の気持ちは人間にとって基本的である。これが、「生物の多様性が大切な理由」であろうか? まさか、新薬の開発のみで生物の多様性が大切だというわけではないだろう。またこれが、人間にとっての環境の善し悪しの指標になるという考え方だ。生物の多様性が減少する自然は、人間にとっても劣悪な環境であると考えられるから、そのいい指標になるという考えだ。この考えには、すこしは説得力があるのではないだろうか。