「天才の栄光と挫折」数学者列伝 藤原真彦著を読み終えた。「天は二物を与えず」というが、このことわざは、例外が多すぎる。著者は数学者であるが、評論家か小説家としても一流であると思った。数学者列伝と副題にある。ニュートン、関孝和、ガロワ、ハミルトン、コワレフスカヤ、ラマヌジャン、チューリング、ワイル、ワイルズの9人の伝記を中心に据えてあるが、筆者が実際に生地を訪問したり、取材をしたり素晴らしいルポルタージュを読んでいるような感動がある。天才という輝かしい栄光と、その栄光の裏側にある深い孤独や失意が一流の文筆家の筆致で描かれている。
しかし、数学的な業績が文学的にしか書かれておらず、少々物足りなく思った。たとえばハミルトンの四元数の説明があれば本編ではムリでも、「付録」をつけて、その定義やたとえば、三次元の回転を四元数で表現する場合などの応用があるともっとおもしろいと思った。しかし、たいへん刺激的な本を読み、素晴らしい経験をした。